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効果的な就労支援の提案~働くことに困難を抱える人と働き手を必要としている人をつなぐために~②


埼玉県南部にある精神科病院で、常勤職として働いていたEncourage室長は、そこの病院で多くの優秀な多職種のお友だちに出会いました。かなり大きな病院だったこともあり、有能でやる気のある若手スタッフが経験を積むために働いていて、彼らと一緒にケースに取り組むことはとても刺激的でした。

患者様の疾患や背景も多種多様で、私は心理職として心理検査を実施した後、「どうしたらこの人の困りごとや現在の状況をうまく表現することができるのだろうか」「どんな言葉で説明すれば主治医や他の専門職スタッフにもわかりやすくなるだろうか」「心理検査を受けてよかったと言ってもらえるようにするには、どうしたらいいだろうか」「私はクライアントのことを正確に理解できているのだろうか」といつも考えていました。

そこの病院の心理士は、認知行動療法を勉強していた人、動作法を勉強していた人もいましたが、一番多かったのは精神分析を勉強している人たちでした。私はどうも精神分析的な考え方が肌に合わず、ロールシャッハ・テストも「Japanese standard」の片口・クロッパー法ではなく、中村紀子先生(包括システムによる日本ロールシャッハ学会顧問/国際ロールシャッハ及び投映法学会前会長)が主宰するエクスナージャパンアソシエイツのワークショップに定期的に参加して、包括システムで学びなおしました。同じ心理士でも、よって立つ立場によって使用する言葉も考え方も大きく違います。心理士の仲間と話していても何となく話が通じなくて、自分が浮いているような感じがいつもしていました。その反面、「どうやったらこの患者さんの退院後の生活を支えていけるようになるか」と関係機関や医師と格闘したり協働しているワーカーのみなさん(精神保健福祉士/社会福祉士)とは話が合い、何かと仲良くしてもらっていました。

彼らと話していていつも話題になるのは、「精神科の薬だけでよくならない人たちは、脳の神経伝達物質の問題ではなく、その人のパーソナリティ(俗にいう性格)と環境の相互作用によって問題が生じているからで、病院の枠組みでできる事には限界がある」ということでした。特に心因性のうつや適応障害などは、本人に何がしんどくて会社や学校などにいけなくなっているのか自己理解を促すことも大切だし、本人の努力だけでよくならない場合は環境を変えることも必要だけど、生活がかかっているから簡単に仕事は辞められない。そうしたら、患者さんと会社でお互いに話をしてどこかで折り合いをつけていけるようにしていかないとということになるけど、当人同士だと軋轢が生じて居づらくなることも多いから、長く安定して働き続けることなんて不可能に近い。転職を繰り返して自分にあった環境を見つければいいと巷ではよく言われているけど、誰だって縁あって入った会社をそうすぐに辞めようなんて思っていないし、離職は本人に「ここでも続けられなかった」という傷を残すことも案外多い。会社だってコストを考えれば長く働いてほしいと思っているはず。でも、中小企業はギリギリの人員で回しているから人を育てるだけの時間的余裕も体力もないところが多いし、今の世の中は企業も労働者もみんな疲弊している。障害者雇用といっても、精神疾患の人と接したことのない企業の人がその人たちに合わせてプログラムを考えるなんて無理だし、医療関係者だってうまく支援できる人もいればこじらせる人もいる。突き詰めていくと、力のある専門職集団がきっちりと仕事をして、成果を出して、世間に認めてもらえるしくみを作らないとどうにもならないよね、というようなことを真面目に語っていました。

「じゃあ、私たちで人間関係やそれに付随してメンタルヘルスの問題をこじらせてしまって、働きたいのに働けなくなってしまった人たちを対象に、もう一度社会に出てみようと背中を押せる専門職集団による包括的な相談支援事業を立ち上げられるようやってみよう!」ということになりました。それが「project J」のはじまりです。