市長室に行くにあたり、私は市長の人柄についてリサーチをしました。相手のことを知り、どのように自分の言いたいことを伝えたらいいか、作戦を練るためです。そして、ネット上に「市長物語」なるものを発見。市長は「やると決めたらどんな難しいことでも全力で実現に向けて動く人」であると知るに至ります。「どんな苦労があっても、何とか工夫して方法を探す」ことで組織から評価されてきたことが書かれていました。(この人は自分を曝け出している。全力で伝えればわかってくれる人だ)と確信し、私も全力で市長に言いたいことをぶつけることに決めました。
そして当日。
市の福祉計画やら、厚労省が出しているひきこもり資料やら何やらの束を手に、市長室へ(同行した人は資料がたくさん入った丈夫な紙袋を両手に持って登場した私にびっくりしたそう)。
政治家秘書さんの助言もあったし、市長にどう思われようが私には失うものはなかったので気合いは十分。
「私は働けない人たちを働けるようにする機関を作りたい。精神科で治療してもよくならない人がいる。私たちは、医療的ケアが必要か福祉制度の利用が必要かスクリーニングするスキルがある。私たちが本当に支援すべきは、医療でも福祉でもよくならない人たちだ。福祉計画にひきこもりの実態把握を進め、支援体制を構築することが課題って書いてある。掘り起こしから体制作りまで私と仲間が全部やるから、どうやったら出来るか教えてくれ」と強気にお願いした。
市長は「福祉計画なんてそんなのただの作文だ」と言ったが、「市長のあいさつでも重要課題と書いてある。公的な資料、それも市長の名前で書いてあることはただの作文なのか」と返したら、「見せてみろ」と言われたので、該当部分を提示。そこには市長の顔写真まで(室長、失礼極まりない)。
市長はしばらく考えていたけど、福祉部の課長やら産業政策の役職やらいろんなところにその場で電話してくれた。しかし、残念ながら市の役職者はみな不在。唯一電話が繋がったのが社協の責任者だった。
「今、私のところにこういう女性が来ている。ヒステリックじゃなく、理性的なきちんと勉強している専門家だ。彼女の話を聞いて、力になってもらいたい」と言ってくれた。
そして、市長の名刺の裏に責任者の携帯番号を書いて、私に言った。
「私は割と判断が早い人間なんだけど、あなたの話はすぐに判断できない。どこにつないだらいいのかがわからない。いろんな領域にまたがっているから。そして、あなたのやろうとしていることはとても時間がかかるものよ。あなたはとても苦労すると思う。でも、あなたは臨床心理士だ。心理の仕事とは、そうやって地道に続けていく仕事だから、あなたならやれるだろう。国や県がまとめてお金を出してくれるなら、あなたの言った通りに高崎でやっていい。一通りいろいろ回ったら、もう一度市長室に来てくれ」と。そして、「政治とは、本来、そういう泥臭いものだ。今の政治家も、そういう施策に一から関わっていったほうがいい」と。
簡単にすぐ結果が出ないものに取り組む大切さを、市長もわかっている。そこは、政治家の秘書さんと同じだと思った。
そして、私はその苦労を引きうける覚悟をした。
市長は、話せばわかってくれる人だった。
心理の仕事も理解してくれているし、この施策が斬新なものだとも思ってくれた。
私は、市長に信じてもらえたことがうれしかった。だから、補助金を調べまくって、生活困窮者自立支援法にたどりついた。